阿波の遊行弍
言葉の奥底に眠る物語
言葉が音楽へと変わる瞬間、そこには名付けようのない感情が芽生えます。「阿波の遊行弍」では、歌詞の背後に隠された文脈や多層的な意味を、丁寧な思索とともに紐解いていきます。この緻密な解釈のプロセスこそが、楽曲に真の命を吹き込み、聴き手の心に深く永く響き続けるための指針となるのです。
5: 香川県佐文(さぶみ)綾子踊
香川県のまんのう町佐文地区は、徳島からは県境の阿讃山脈を越えて
瀬戸内海側、満濃池を抱えた農村で、古くから干ばつに悩まされてい
ている地域であるが、この地の「綾子踊り」は、古式を残した雨乞い
の踊りとして知られ、ユネスコの無形文化遺産にも指定されている。
今は8月23日に氏神様で奉納しているが、本来は町内の龍王山に
向かって雨乞い祈願として踊られる。踊り子は女装した男性で、雨乞
いに力があると考えられていた。中世歌謡や近世の女歌舞伎踊り歌を
豊かに伝承している。芸能史研究家で武蔵大学名誉教授の小笠原恭子
氏はその著「出雲のおくに」で、佐文の綾子踊はおくにの一座が伝え
た形跡が強いと推定している。
「水の踊」「綾子踊」「塩飽船」など12の曲目が伝わっている
が、ここに収録されている「かえり踊」は、その最後に踊られる曲で
ある。
おれが姑(しゅうとめ)のたけちなや
流れる水に 絵を描けと
流れる水に 絵を描けば
あなたは夜空の 星を読め
お庭踊らば いざ踊ろう
俺が姑の たけちなや
岩を袴に立ち縫えと
岩を袴に 立ち縫えば
あなたは小砂を糸に縒れ
お庭踊らば いざ踊ろ
たぞやお庭に 竹切るは
おれが姑の植竹を
お庭踊らば いざ踊ろう
「たけちなや」は、「たけし(=気が強い、猛々しい)」のなまったもの。
「流れる水に絵を描け」「岩を袴に立ち縫え」などと無理難題を吹っ掛ける
姑に対し、嫁がそれならあなたは「夜空の星の数を読め」「砂で糸を縒れ」
と反撃する。「嫁そしり歌」の系統の歌で ある。
(1975年 仲南町(現・まんのう町)佐文で収録)
